法定後見制度の利用にあたって
一度成年後見人が選任されると、ご本人が回復するなどしない限りは、原則として亡くなるまで後見人を解任することはできません。
したがって、銀行から「定期預金の解約のために必要だから」とか、不動産屋から「自宅の売却のためにつけてください」などと勧められるがままに申し立てをすると、目的を果たした後も後見人に報酬を支払い続けることになります。
→成年後見人は「ワンポイントリリーフ」ではありません
「自分が親の後見人になろうと申し立てをしたのに、知らない弁護士が選任されてしまった」、「後見人と相性が良くないから後見人を代えてもらいたい」、「同居している自宅の修理費を親の口座から充当できないのなら制度の利用をやめたい」など、当初考えていたことと相違があることがわかっても、法定後見制度の利用を簡単にやめることはできません。
→あくまで、「ご本人」のためだけの財産管理と身上保護が目的の制度になります。
このように、ある程度のリスクがある制度であることをきちんと理解したうえで、法定後見の申立ては慎重に検討していく必要があります。
→法定後見制度の利用は最後の手段と考えるのがいいかもしれません
再び家族の後見が主流となるか?
2000年に成年後見制度が始まった頃は、法定後見制度において裁判所が選任する後見人等は「家族」が主流でした。
ところが、その後見人等になった家族の使い込みなどの不正行為が頻発したことから、現在では「専門職」(弁護士、司法書士、社会福祉士など)が選任されることが多くなりました。(現在7割以上が専門職後見人)
最近になって、この流れがまた変わる出来事がありました。
それは、最高裁が「後見人等の選任の基本的な考え方」として、「後見人となるのにふさわしい親族等の身近な支援者がいる場合は、これらの身近な支援者を後見人に選任することが望ましい」という見解を示したことです。(平成31年3月18日)
このことから、今後、家庭裁判所が後見人等を選任する際、家族後見が主流となっていけば、「家族が後見人等になろうとして法定後見を申し立てたのに、見ず知らずの専門職が後見人に選任されてしまう」という、この制度特有の理不尽さが解消される可能性がありますが、今後の動向を見極めていく必要があります。
法定後見制度は認知機能が衰えた後、利用を検討する制度です。ご本人が制度の利用の要否を自分で判断することはできませんので、ご家族や支援者がご本人の様子を見ながら判断することになります。
申立人となるご家族がいない、疎遠である場合など、各市町村長名で申立てを行うこともできますので、支援者である地域包括支援センターの相談員さんや民生委員の方で、心配な方がいらっしゃる場合、対象となる高齢者の住民登録地の自治体の高齢者支援担当課にご相談ください。
市町村長名での申立ての可否を検討してもらうことができます。
また、生活困窮者などが法定後見制度を利用する場合、自治体によっては申立費用や後見人への報酬を助成してくれるところがあります。
助成制度があるかどうかも合わせて確認してみてください。
その他の社会資源の活用
財産については社会福祉協議会やNPOでも管理してくれる場合があります。
・あんしんサポートねっと(社会福祉協議会の日常生活自立支援事業)
・NPO法人とのサポート契約
これらは「契約行為」ですので、本人がある程度意思表示ができないと使えませんが、現段階で「法定後見の申し立て」が本当に最善の策なのか、その他の社会資源を利用できないかなど、ご本人の状況を確認しながら慎重に考えていく必要があります。
法定後見制度の利用は最後の手段
なるべく使わなくて済むように、今から対策を考えておくことが大切です!
では次のページから、その事前の対策の一つである「任意後見制度」について見ていきたいと思います。